私たちがその個展のレセプションに駆け込んだのは、もう終わりに近い頃だった。30数点並んだガラス絵の多くは、根津さんが訪れた世界の街と猫をモチーフにしたもの。ほとんどすでに売約済みの印が付いていたが、「イーペルの猫」と題されたガラス絵は残っていた。
ベージュとブルー・・・ガラス絵特有の澄んだ色に引かれて、ずっと見ていると、家に連れて帰りたくなった。
イーペルとは、ぺルギーの街の名前。そこでは3年に一回、「猫祭り」が開かれるのだという。シルクハットをかぶったお茶目な猫は、そのイーペルの猫祭りをモチーフにしたもの。
根津さんとは、モダンリビングの「建築家・宮脇檀を読む」という特集のときにお目にかかった。このテーマでは、根津さんにイラストを描いて頂いた。
宮脇さんが文章を、根津さんがイラストを描いた「最後の昼餐」という本がある。初めてお目にかかったとき、そこに載っている根津さんのお宅に伺った。
ベランダをグリーンでいっぱいにして、料理を作って外で食べることを、10年以上前に楽しんでいたーーその記録が「最後の昼餐」だ。ベランダのグリーンガーデンはなくなっていたけれど、お家は本のイラストそのままで、私たちはとても感激した。木の温もり溢れる空間に、小物は白と黒だけで統一した、とても温かく、とても心地いい、センスに溢れたお家だった。
ガラス絵は、構図を決めるまでが大変だそう。裏から描いていくので、左右逆に描く。色の重ね方も普通とは逆になる。ガラス越しに見ると、立体感と透明感が加わって、不思議な奥行きがでる。それがガラス絵の魅力。
根津さんのお茶目な「イーペルの猫」はこんな風にうちのリビングに収まった。

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著:深澤直人 写真:藤井保
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THE OUTLINE 見えていない輪郭
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